5時ですから!

「美奈さん、ぼくの研究室を見に来ませんか♪」

遺伝子の研究をしているBさんが連絡をくれた。

好奇心だけは旺盛なので、声をかけられれば、森の中でも研究室でも、どこでものぞいてみたくなる。機械工学に関心があるらしい三男も行くというので、研究所の前で待ち合わせた。夕方の5時に。

Bさんは、子どもたちを保育園に迎えに行って、子どもたちと共に現れた。

「子どもたちが一番最後になったら可哀相だから、急いで迎えに行ってきました。5時ですからね!」

案の定、研究室には誰もいなかった。

もちろん、他の研究室には明かりがついていたが、多くの研究者は夕方は帰って、家族との時間を過ごし、必要であればまた夜に来たり、朝早く来たりしているという。

それに、考えることは家でもできるよ。

夕方には子どもを迎えに行き、お風呂に入れ、ご飯を食べさせ、寝かしつけるのは、母親でも父親でも、親としては当たり前のことでしょ?夜中まで、ましてや週末までぼくが研究室にいたら、ぼくの奥さんは子ども3人と気が狂ってしまうよ!それに、何のために家族がいるのか分からない。

研究室見学は、にわか"遺伝子の授業"となり、2時間かけBさんは遺伝子の研究がどれだけ最新で、面白く、そして、ある意味とてもシンプルなのかを熱く語ってくれた。

「はちみつの中には、それを作ったハチの遺伝子もハチが集めた蜜の植物の遺伝子も入っているんだよ」

頭がくらくらするような難しい話でもあるのだけれど、身の回りは遺伝子だらけなのだ。

教科書など作れないほどのテンポで発展し続け、研究者として試したくなる、可能性がいくらでも広がっている分野だけに、それと関わる人たちの「人としての質」が一番のカギとなってくる。

「日本だったら、5時に研究者がいないなんてありえないだろうなー。きっと夜中も、週末も研究室にこもって研究していると思う」

帰りの車の中で三男に言うと、しばらく考え、どういったらいいかを言葉を選びながら

「でも、何となくだけど、"遠い成果"が出ない気がする」と答えた。

"遠い成果"というのは、目先の成果は出るのかもしれないけれど、長期的な成果という感じだろうか。

研究者が、ちゃんと家に帰り、子どもたちや家族との時間を過ごし、日常を過ごすことって、世界レベルでの長期的な発展を考えたらものすごく重要なことなのではないだろうか。

普通の人間としての、家族や社会の一員としての感覚を忘れずに自分の専門分野を考えられることは、結果として視野を広げ、新しいアイデアにつながるのではないのだろうか。

研究室見学は、なによりも私自身が自分の胸に手を当て考えさせられる時間だったのでした。